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2014/11/28

地上観測地点「東京」の移転について

12月2日に予定されている『地上観測地点「東京」の移転について』ポイントをここに解説します。詳細の内容は気象庁発表の10月3日の報道資料をご確認ください。
http://www.jma.go.jp/jma/press/1410/03b/20141003_tokyo_rojo.html

背景にあるのは、東京の大手町周辺で現在行われている大規模な再開発です。その一環で気象庁のビルが取り壊され、その前に気象庁が虎ノ門に移転する計画があります。それに先駆けて、気象庁正面玄関近くに設置されている観測施設が2014年12月2日から、北の丸公園に移されます。

一般に観測地点の移転(移設)が行われる場合、移転の前後で気候条件が有意に変化するようであればその前後のデータを統計的につなげることはしません(「統計切断」と呼びます)。平年値、極値(最高気温、最低気温、降水量、最大風速、積雪深などあらゆる記録のデータ)は一旦リセットされ、移転後新たにデータの蓄積を始めることになります。

本来なら新しい観測点での平年値が算出されるまでには早くて30年かかります。 今回、大手町から北の丸公園に移転するにあたり、観測地点が約900m西にずれます。また海抜高度も19m高くなります。ここまで諸元データが変われば、データは統計的に切断されるはずですが、「東京」という日本にとって最もシンボリックな地点ということで、気象庁の配慮により今回は特例的に統計的に切断しないよう考慮した措置が取られることになりました。

実は気象庁は2年前から、新観測点での予備観測を実施しています。両者の比較から、新旧2地点の天候のズレを計算することができるので、12月2日から適用される新しい平年値は、今用いられている平年値に両者の比較誤差の要因を加えて計算されています。

amedastokyo.png新しい平年値(暫定値)と従来の平年値の比較(気象庁 報道発表資料より引用)
図は日平均気温/日最高気温/日最低気温の平年値の月平均値の新旧対応表です。特に最低気温を注目すると、平年値は全ての月で1℃以上低くなることが分かります。一方最高気温は従来の平年値と比べて低くなる月、高くなる月がまちまちに存在し、トータルで考えても大きな差異は生じません。

この原因として考えられることが、都市のヒートアイランド現象効果の低減です。 現在の「東京」の観測点は、交通量の比較的多い道路のすぐ脇にあります。夜間もある程度の交通量があるため車からの排熱の影響を受けます。同様に周辺ビルや道路の排熱を受け、夜間気温が下がりにくくなるヒートアイランド現象が顕著に起こっていると考えられます。

一方、新観測点は比較的広い公園の中にあるため、ヒートアイランド現象の影響が弱いと考えられます。その結果、新観測点の平年値は従来の平年値と比べて1℃以上も低くなるのです。具体的な例を挙げてその影響を示してみます。近年、大手町の観測では最低気温が0℃未満となる冬日は1シーズンに数回観測するかしないかの程度の頻度しかありませんでした。それが新しい観測点に移転した後はもう少し頻繁に冬日を観測することになると考えられます。同様に夏場の熱帯夜日数(夜間の気温が25℃を下回らない日)も大きく減少することが考えられます。

日々気象庁から発表される東京の天気予報では、観測点「東京」における天気、気温を予想します。観測点の移転にともない今冬以降は、東京でも最低気温が氷点下と予想される日が増えることでしょう。 おそらくその状況を知らずに毎日の天気予報をみていると、「何となく東京の気候が寒くなった」と感じるかもしれません。ただそれは大きな誤解です。気温を予想する場所が今よりも最低気温が低くなりやすいところであるためです。

一般に企業が業績分析を行う際、東京都心に本社をもつ企業では、参考とする気象データとして東京(大手町)のデータを使っているところも多いでしょう。例えば流通小売で東京都心に店舗を持つ企業であれば、販売分析にあたり、東京の気温を基準に検証を行っていることでしょう。その場合、今年の12月1日までと12月2日以降とでは、ベースとなる値(殊に最低気温)が1℃前後変わることをきちんと把握しておく必要があります。単純に前年比で考えると数字の大きな読み間違いを起こすことにもなりかねません。

ちなみに気象庁の説明によると、極値(最高気温、最低気温、降水量、最大風速、積雪深などあらゆる記録のデータ)はリセットされず、そのまま現状の記録が生きることになるそうです。東京の観測史上最高気温は2004年7月20日に観測された39.5℃、観測史上最低気温は1876年1月13日に観測された-9.2℃です。この記録は今後も生き続けることになります。
ご不明な点はビジネス気象研究所(contact@lbw.jp)までご質問ください。(常盤)



取締役 ビジネス気象研究所 所長 常盤勝美

流通気象コンサルタント・気象予報士・健康気象アドバイザー・IPCCリポートコミュニケーター

tokiwa.png・流通気象コンサルティングのスペシャリスト
・コンビニ、スーパーマーケット、ドラッグストア、ホームセンター
 外食チェーン、アパレル、食品メーカー等に対して、データ解析や
 ウェザーマーチャンダイジングの指導をしている
・著書に「今日からできるウェザーマーチャンダイジング入門」
 (商業界:共著)
・講演実績、出演実績多数


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